政治活動における名前入りタスキの着用は問題ないのか?

一般的に選挙中ではない、政治活動期間中の名前入りタスキの着用は公職選挙法違反により規制されています。しかし、日本共産党を始めとして、公示日よりも前に名前入りタスキを着用し活動している様子が見受けられます。これに対して選挙違反だとする指摘が多く寄せられています。

本記事では、この問題の現状と法的な観点から、名前入りタスキの着用の違法性について深く掘り下げていきます。

公職選挙法と名前入りタスキ

公職選挙法では、選挙運動に使用できる物品や方法に厳しい制限を設けています。選挙期間外の政治活動における名前入りタスキの着用が違法とされています。そのため政治活動でタスキを着用する場合は、【本人】や【挑戦者】、キャッチフレーズなどを記載して活動する場合が多いです。

ここで、公職選挙法で名前入りタスキの着用が違法に当たるとされている法的根拠を提示したいと思います。

法的根拠

  • 公職選挙法第143条(文書図画の頒布)

この条文により、選挙期間外に候補者名を表示したタスキを着用することは、事前運動に当たるとして禁止であるとされています。

公職選挙法第143条第16項(文書図画の頒布)

公職選挙法第143条第16項
公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この項において「公職の候補者等」という。)の政治活動のために使用される当該公職の候補者等の氏名又は当該公職の候補者等の氏名が類推されるような事項を表示する文書図画及び第百九十九条の五第一項に規定する後援団体(以下この項において「後援団体」という。)の政治活動のために使用される当該後援団体の名称を表示する文書図画で、次に掲げるもの以外のものを掲示する行為は、第一項の禁止行為に該当するものとみなす。

(一) 立札及び看板の類で、公職の候補者等一人につき又は同一の公職の候補者等に係る後援団体のすべてを通じて政令で定める総数の範囲内で、かつ、当該公職の候補者等又は当該後援団体が政治活動のために使用する事務所ごとにその場所において通じて二を限り、掲示されるもの

(二) ポスターで、当該ポスターを掲示するためのベニヤ板、プラスチック板その他これらに類するものを用いて掲示されるもの以外のもの(公職の候補者等若しくは後援団体の政治活動のために使用する事務所若しくは連絡所を表示し、又は後援団体の構成員であることを表示するために掲示されるもの及び第十九項各号の区分による当該選挙ごとの一定期間内に当該選挙区(選挙区がないときは、選挙の行われる区域)内に掲示されるものを除く。)

(三)政治活動のためにする演説会、講演会、研修会その他これらに類する集会(以下この号において「演説会等」という。)の会場において当該演説会等の開催中使用されるもの

まとめると、以下の3種類の政治活動用の文書図画は掲示が禁止されています(政治活動期間中)

  1. 「政治家の氏名」を表示するもの
  2. 「政治家の氏名が類推されるような事項」を表示するもの
  3. 「後援団体の名称」を表示するもの

ここで「政治家」の定義とは以下になります。

  • 公職の候補者
  • 公職の候補者となろうとする者
  • 現在公職にある者

これらの規制は、特定の政治家や団体を有利にしないよう、選挙の公平性を確保するためのものです。例えば、現職の政治家が自身の名前や後援会の名称を掲示することで、他の候補者よりも有利になることを防ぐ目的があります。

この公職選挙法第143条第16項により、政治活動期間中は候補者本人の名前の入ったタスキの使用は認められていないと解釈されています。

しかし、公職選挙法第143条第16項の三を見ると、政治活動のためにする演説会、講演会、研修会その他これらに類する集会では、上記の3種類の政治活動用の文書図画の提示が認められています。このことから、個人的な集会などの支援者向けの活動であれば名前入りタスキの着用が認められていることになるのではないかと考えられます。

さらに、国会答弁においても政治活動において、名前入りタスキの着用を認めるかのような答弁が行われています。

名前入りタスキに関する答弁書

国会答弁において、立憲民主党所属の高木錬太郎衆議院議員が行った【平成三十年十二月四日提出
質問第一一四号
】に注目します。この質問書から、該当部分のみを引用します。

公職の候補者等の氏名が大書された「たすき」については、選挙運動期間中に公職の候補者本人が選挙運動のために用いる場合のみ許容されており、当該公職の候補者等が個人として行なう政治活動のために用いることや、立候補届出前に選挙運動のために用いることは、公職選挙法に抵触するとして禁止されているが、一方で、当該公職の候補者等が政党の公認を受けている場合においては、「たすき」に、当該公職の候補者等の氏名の外、当該政党名や政党のシンボルマークが記載されていれば、政党活動として立候補届出前の使用が許されていると説明する選挙管理委員会も存在する。このことについて、政党活動に当たる場合は、立候補届出以前においても当該公職の候補者等の氏名が大書された「たすき」の使用が認められていると解してよいか。

上記の質問に対して、答弁書は次の通りです。

 お尋ねの「政党活動に当たる場合」の意味するところが必ずしも明らかではないが、公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下「公職の候補者等」という。)の政治活動のために使用される当該公職の候補者等の氏名又は氏名が類推されるような事項を表示する文書図画及び公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)第百九十九条の五第一項に規定する後援団体(以下「後援団体」という。)の政治活動のために使用される当該後援団体の名称を表示する文書図画については、同法第百四十三条第十六項各号に掲げるもの以外は掲示することができないこととされている。
 一方、後援団体以外の政党その他の政治活動を行う団体の政治活動のために使用されるたすきについては、一般的には、選挙運動のために使用されるたすきと認められない限りにおいては、掲示することができるものと考えている。
 いずれにしても、個別の行為が同法に違反するか否かについては、具体の事実に即して判断されるべきものと考える。

この答弁書に注目すると名前入りタスキの着用について、以下のように解釈できます。

  • 政党や政治団体の政治活動として使用する場合、名前入りタスキが選挙運動と認められない限り、立候補届出前でも使用が許可される可能性があります。
  • この場合、タスキに候補者名のほか、政党名やシンボルマークが記載されていることが求められることがあります。

以上をまとめると、政党が行う政治活動で特定の候補者の当選を図ることを目的とする「選挙運動」に該当しなければ、名前入りタスキの着用が認められると解釈ができます。

この解釈により共産党は、名前入りタスキの着用を行っているのではないかと考えられます。

このような問題が起きる原因

公職選挙法の法解釈の曖昧さによって引き起こされていると考えられます。公職選挙法の解釈に関して、政党や候補者によって異なる見解が存在しています。この法律の一部の条文や規定が明確でない場合、それぞれの立場によって都合の良い解釈がなされる可能性があります。その結果、名前入りタスキの着用が違法か合法かという具体的な問題が生じています。この曖昧さは、選挙運動の公平性を脅かし、候補者間の不公平な競争条件を生み出す可能性があります。さらに、有権者にとっても何が許可された選挙運動で何が違法なのかを判断することが困難になり、民主主義プロセスへの参加に混乱をもたらす恐れがあります。

おわりに

名前入りタスキの着用に関する問題は、公職選挙法の解釈の曖昧さから生じる複雑な課題であります。法律の条文や国会答弁を詳細に分析すると、政党活動と選挙運動の境界線が必ずしも明確ではなく、そのグレーゾーンが様々な解釈を生み出していることがわかります。

この問題の核心は、民主主義の根幹である選挙の公平性と、政治活動の自由のバランスをいかに取るかという点にあります。一方では、特定の候補者や政党が不当に有利になることを防ぐ必要があり、他方では政治活動の自由を過度に制限しないことも重要です。

今後、この問題を解決するためには、以下の取り組みが必要だと考えられます。

  1. 法律の明確化:公職選挙法の関連条文を見直し、より明確な基準を設けることで、解釈の余地を減らす。
  2. ガイドラインの策定:選挙管理委員会などの関係機関が、具体的なガイドラインを作成し、統一的な運用を図る。
  3. 政党間の対話:各政党が協議を行い、公平な選挙活動のルールについて合意形成を目指す。
  4. 有権者への啓発:選挙制度や政治活動に関する理解を深めるための教育や情報提供を強化する。

名前入りタスキの問題は、一見些細に見えるかもしれませんが、民主主義の健全な運営に関わる重要な課題です。この問題の解決に向けた取り組みは、より公正で透明性の高い政治プロセスの実現につながるでしょう。今後も、法律の専門家、政治家、そして市民社会を含めた幅広い議論と検討が必要とされています。

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